吉益東洞の偉業"薬徴"について

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不妊症 漢方薬/不妊症の漢方薬はむつごろう薬局
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吉益東洞の偉業"薬徴"について
むつごろう薬局 白井憲太郎

【はじめに】
昭和14年に、昭和漢方の大家、大塚敬節先生、湯本求眞先生、奥田謙蔵先生等により行われた座談会「吉益東洞を語る」で、湯本求眞先生は「吉益東洞は日本の張仲景だ」と絶賛されています(漢方と漢薬第7巻1号P81より)。ではなぜ、吉益東洞はそんなに偉大なのでしょうか。東洞先生の著書には、「方機」「方極」「類聚方」などがありますが、今日は、東洞先生が著書の中でも最も力を入れ込んだと言われている「薬徴」について、現代病と絡めながら、その"偉業"に迫ってみたいと思います。

薬は皆"毒"
薬徴の見出しに「薬は毒なり」とあります。当時(江戸中期)、薬と言えば、病気の時に飲むせいか、「体力を補う」とか「元気を養う」ものだという考えが一般的な常識でした。しかしながら東洞先生は、その常識をくつがえし、"薬は皆毒"と考えたのです。そして病も毒と考え、毒(薬)が身体の中の毒(病)に当たって瞑眩し、(病毒が)身体の外に出て病が治ると考えたのです。

例えば「人参」について考えてみますと、後世ではその能を「虚を補う」とか「元気を養う」と言っていますが、薬徴では「心下の痞堅、痞_、支結を主治するなり」と言っています。心下の痞堅、痞_、支結とは、みぞおち(心下)の辺りが痞えて硬くなっていることを示しています。これは私なりの解釈ですが、心下が硬くなるのは、心下に水毒が滞り、血が通ぜずに硬くなっていると考えます。例えば肩こりも、肩の血液循環が悪くなって起こりますが、心下痞_も、みぞおちに起こる肩こりのようなものと考えれば分かりやすいかもしれません。そして人参は、心下の水毒を捌くことによって血を通じさせ、痞_を治していると考えられます。また、薬徴では、木防已湯を例に挙げ、これらのことを裏付けしています。

張仲景の人参を用うるや木防已湯より多きことなし。その証に曰く「支飲にて喘満、心下痞堅、面色_黒(りこく)」と。未だ嘗(かつ)て虚を補うの言を見ざるなり。又曰く「虚する者は即ち癒ゆ、実する者は三日にして復た発す。復た与えて癒えざる者は、去石膏加茯苓芒硝湯之れを主る」と。・・・古語に曰く「有を実と為し、無を虚と為す」と。

これは、私なりに分かりやすく解釈致しますと、木防已湯証は、血毒・水毒が心下から胸にかけて充満し、脈も沈緊で、どちらかというと色黒で恰幅のよい(大物政治家にいそうな)実証タイプが多いにもかかわらず、仲景方では人参が最も多く使われています。だから、人参が虚を補っているのはおかしいと言えます。人参はただ、心下の水毒を捌いているのであって、木防已湯証に多く入っているのは、実証で毒の量も多いからだと言っています。また、「虚する者は即ち癒ゆ、実する者は三日にして復た発す。」とありますが、古語では「虚は無、実は有」と考えるため、"虚"とは、体力が無いというような意味ではなく、"毒が無くなった状態"のことを言い、逆に"実"とは、"毒が未だ有る状態"のことを示しています。そしてこのことからも、人参は虚を補っているのではなく、実(毒)を捌いて、虚(無)にしていることが分かります。

当時、誰もが"人参は虚を補う薬"と考えていたときに、"人参は心下痞_を治しているだけ"と言った東洞先生の真実を見破る鋭い眼力には頭が下がります。

瞑眩とは
書に曰く「若し薬、瞑眩せざれば、厥の疾_えず」と。瞑眩とは、薬(毒)が体内の病毒に当たって起こる好転反応のことで、東洞流の真骨頂とも言えます。東洞流では、薬=補う・温める・養うといった考えが全く無く、薬は飽くまで"毒"であり、体内の病毒に当たってそれを排出させ(瞑眩)、病を治すと考えます。例えば、大黄で下るのも、麻黄や柴胡で発熱・発汗するのも、附子で痺れるのも、皆瞑眩と考えますので、毒が出ている兆候が見られたら、毒が尽きるまで飲み続ければよいと考えます。ただ、いくら毒を出せばいいと言っても、証を間違うと、反って体力を損傷したり、症状が悪化したりする場合がありますので、そこの見極めが肝心です。

なぜ今、東洞流なのか
東洞先生曰く「余、篤く信じて"古"を好む」と。  今、私達現代人は、食事・生活・環境すべてにおいて、便利化・合理化が重視されています。例えば、生きるうえで最も大事な食事においても、アイスやジュース、チョコレートなど甘い物・冷たい物を好きなだけ食べておいて、その一方で、足りない栄養素を補うためにビタミン剤などのサプリメントを服用しています。しかしながら、一昔前ではほとんど見られなかったようなアトピー性皮膚炎・喘息・花粉症、そして不妊症などの現代病は、うなぎ上りに増えています。やはり、いくら栄養素の研究を行ったところで、データ通りにいかないのが人間の身体ではないでしょうか。では、いったい何を信じて、何を食べれば健康になれるのかということになると思うのですが、今、私達がこの世にこうして生まれてこられたことや、ずっと子孫を継続してこられたことを考えると、やはり昔の人が摂っていた食事、日本人なら玄米・味噌汁・漬物といった伝統食が私達の身体(DNA)に一番合っていると言えます。今こそ東洞先生に倣って"古"に還るべきときではないでしょうか。

現代人は"毒"だらけ
現代人の身体には"毒"がたくさん溜まっています。なぜなら、現代人が"毒"を食べないからです。ごはんは玄米ではなく白米、パンは真っ白で柔らかいパン、サトウキビからは砂糖、そして消毒殺菌された水など、現代人は、精製されたおいしい所=栄養を好んで食べます。もちろん、糖質・脂質・水などは、人間が生きていくために必要不可欠な栄養ではありますが、"栄養"であるがために、身体は必要以上に溜め込んでしまいます。そして溜め込まれた栄養は、運動不足も手伝ってか燃焼されず、やがて古くなり、血毒・水毒へと変わるのです。逆に漢方薬は、苦くてまずくてはっきり言って"毒"であります。しかしながら、"毒"だからこそ、身体はすみやかに排出しようとして、他の血毒・水毒も一緒に排出してくれるのです。例えばミカンですが、私達は甘くてみずみずしい実を好みます。実は、水と糖質でできており、栄養になります。しかし食べ過ぎると、身体の中に水毒として滞ってしまい、血の道を不通にして身体を冷やします。逆にミカンの皮は、まずくて食べれませんが、_皮(ちんぴ)といって漢方薬として使います。_皮は、苦くて栄養にはならず"毒"ですが、服用すると、身体はそれ(毒)を分解・排泄しようとして胃腸の働きを活発にします。_皮は、"毒"だからこそ身体は、分解・排泄しようと必死になるのです。そしてその作用を上手くりようして、胃腸の働きが悪いときに"薬"として使うのです。ミカンの皮やモモの種、玄米の繊維質もそうですが、私達がまずくて捨てている部分は、実は"薬"になっています。神様(自然)は、無駄な物を作らないと私は考えています。

【おわりに】
毎日漢方相談を行っていますと、現代人の多くが食べ方を誤り、運動不足も手伝って水毒・血毒体質になっているのがよく分かります。ただ、考えてみれば、それも無理はないかもしれません。街に出れば、ありとあらゆるところにアイスクリームやケーキ、チョコレートなどが販売してあり、スーパーに行けば、いつでも季節外れの果物が並べてあります。また、西洋薬では、痛みを止めたり、アレルギーを抑えたりなど、対症療法はできますが、身体に溜まった"毒"を出すことはできないので根治にいたりません。今、日本では、10組に1組の夫婦が不妊症であると言われていますが、このまま生活を改めないともっともっと増えるのではないでしょうか。 私は、今だからこそ、吉益東洞先生の唱えた古方、すなわち解毒療法が必要だと考えています。そして、私も含めて現代人は、漢方だけでなく食生活や考え方も、少し"古"に還したほうがよいのではないかと日々実感しています。

(参考文献)
(1)小川新校閲・横田観風監修:吉益東洞大全集全4巻(たにぐち書店)
(2)田畑隆一郎著:漢法ルネサンス(源草社)
(3)田畑隆一郎著:よくわかる金匱要略(源草社)
(4)漢方と漢薬第7巻(春陽堂)
(5)大塚敬節著作集第8巻(春陽堂)


【畑から見た薬草の性格】 
科学的でない漢方は、"イメージ力"が重要です。畑で育つ"生きた"薬草からは、本には載っていない性質をイメージとして感じ取ることができます。また、初めて漢方を考えた人は、科学的データなど全く無かったのですから、相当のイメージ力を持っていたに違いありません。

当帰:当帰は乾燥を嫌います。葉っぱは、外へ外へと大きく伸び、大地の乾燥を防ぎます。また、根っ子も、まるで手足の血管のように、外へ外へと細かく伸びます。味は、セロリのような辛味に、若干の甘味があります。漢方では、甘味は"緩める"、辛味は"巡る"と考えます。よって当帰は、血の道を緩め、手足の方に向かって外へ外へと巡り、手足の冷えや乾燥を治すと考えれます。また、当帰には、"芽くり"という修治が行われます。これは、苗を植える時に、塔が立つのを防ぐために、芽をくり抜く作業です。当帰は、芽をくり抜かれても、再生能力が強いので、次から次へと新芽を出します。そして、この再生能力と乾燥を治す力を利用してできたのが、紫雲膏であります。

川_:川_は、当帰と同様、乾燥を嫌います。葉っぱは、小刻みに生えますが、当帰の様に外へはあまり巡らず、内に凝る感じです。根っ子も里芋のような塊になります。味は、辛味が主で、甘味はありません。よって、川_は、血の道を巡らす能に長けていますが、血の道を緩めないので、手足への血行をよくするというよりも、内に凝った血を巡らします。また、それ故に、古く凝り固まった血を巡らす能は、当帰よりも長けています。応鐘散(おうしょうさん)に使われる所以です。

芍薬:芍薬は、たくわんの様な太い根を巡らしますが、その姿は、まるで、腹部大動(静)脈を想わせます。細かく根を伸ばす当帰が、手足の血行をよくするのに対して、太い根を伸ばす芍薬が、お腹の血行をよくして腹直筋の緊張を治すのは漢方の面白い所です。また、芍薬の味は少しすっぱいような感じで、どちらかというと"巡る薬"という感じです。ただ、緊張を緩める甘草と組めば、筋肉の緊張を緩めて血の道を巡らしますので、各種筋肉痛等に効を示します。

黄耆:黄耆はマメ科の植物ですが、葉っぱは軟らかく、フカフカしています。また、根っ子は、パサパサとしており、地中深くまで伸びていきます。いかにも水を吸いそうですが、身体に入ってもその能を示し、身体の余分な水、特に皮膚表面に浮き出たような水を吸い込み、小便へと導きます。

柴胡:柴胡は油(精油)を多く含むため、アブラムシの格好の餌食 になります。また、地上部はよく燃えます。ただ、油が多い分、夏の日照りや冬の寒さにめっぽう強いです(もちろん冬は地上部は枯れますが、鹿が寒さをしのぐのに時々食べています)。そして漢方では、往来寒熱(寒くなったり熱くなったりする症状)を治すのに使います。往来寒熱とは、「血毒が内にこもり、血熱が生じて身体が熱くなるのですが、同時に血の道が不通になるため、身体は冷えと暑さの両方を感じるようになる状態のこと」を言います。よく婦人が閉経した後、更年期症状で熱くなったり寒くなったりすると言われますが、あれは生理がなくなったために血毒が内に残って起こる現象です。柴胡剤は、非常によく効きます。


【略歴】1973年、広島に生まれる。北里大学薬学部卒、薬剤師、東亜医学協会会員。江戸時代の漢方医、吉益東洞を崇拝し、日本漢方を極めようと日々精進しております。傍ら、6反(約1800坪)の薬草園を開墾し、当帰・芍薬等の無農薬有機栽培を実践しております。主婦の友社出版「赤ちゃんが欲しい」に"不妊と漢方"について連載中。


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  • 現在のシャクヤクの大きさです。これで5年目です。今年はそろそろ収穫どきかな?

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