| 畑(自然)の力で妊娠力を高める
 1.はじめに 私達むつごろう薬局では、無農薬有機農法によるむつごろう薬草園を運営しています。有機とは「生命(いのち)が有る」という意味で、化学肥料や農薬を使った無機農法とは、生命が有るか無いかの違いがあります。生命の有る薬草(有機)は無い薬草(無機)と比べて、安全というだけでなく、効き方にも随分と違いが出てきます。特に赤ちゃんが出来なくて悩んでいらっしゃる方の場合は、卵子や精子に生命力が無い場合が多く、こういう場合は、いくら人工授精や体外受精のような高度医療を行ってもなかなか良い結果に恵まれないことも多いのではないでしょうか。 私達むつごろう薬局にも、何度体外受精をしても赤ちゃんが出来ないとか、十代の頃から一度も自力で排卵したことがないというような御相談で訪れる不妊症の方がいらっしゃいますが、漢方薬を飲んでいきなり自然妊娠したということも度々あり、自然の持つ生命力の強さを日々実感しております。 2.漢方による不妊治療は畑での薬草栽培によく似ています 私達むつごろう薬局の薬剤師は、自ら畑で薬草を栽培しているのですが、畑での薬草栽培と漢方による不妊治療は良く似ているなあといつも感じています。畑仕事をやったことのある方なら分かると思うのですが、畑も不妊になることがよくあります。例えば種を蒔く時季が悪かったり(寒い時)、土壌が栄養失調もしくは栄養過多だったり、または水不足もしくは水のやり過ぎの時なども畑は不妊になります。今回は漢方による不妊治療を畑とからめながらご説明させて頂きたいと思います。
元気な卵子(種子)は健康な身体(土壌)から 元気な卵子を作るには、まずお母さんの身体が健康でなくてはなりません。そのためにはまず生命の有る食べ物を食べる必要があります。漢方では、蒔けば芽の出るものには生命力が有り、不妊の方には欠かせないと考えます。例えば、里芋・山芋・薩摩芋・じゃが芋などの芋類、大豆・黒豆・緑豆などの豆類などです。もちろん御飯も蒔けば芽の出る玄米のほうが白米より生命力が有ります。逆に良くない物は、アイスクリーム・スナック菓子・菓子パンなどで、これらは蒔いても芽が出ないどころか他の植物も枯らしてしまうでしょう。芋や豆、玄米が主食だった昔の人が1人で6人も7人も子供を産んでいたのを見れば、効果は歴然としています。 【症例】37歳女性。身長160cm体重47kg。結婚して7年になるのですが、赤ちゃんになかなか恵まれず、体外受精を7回ほどやったそうですが、1度は妊娠するものの5週目で流産したとのことでした。体質的には、かなりの冷え性(特に足)で疲れやすく、胃腸もあまり丈夫ではありません。脂っこい物や冷たい物を飲んだり食べたりするとすぐにお腹を壊します。また肩こり・頭痛・立ちくらみなどもあり、貧血傾向です。好きな食べ物は、パン・ヨーグルト・コーヒー等です。 【この方に出した漢方薬】この方の場合、胃腸が弱いため、食べ物を血液に変えることができず、貧血(血液の栄養不足)になっています。そのため卵巣にしっかりと栄養が送られず、元気な卵子が作られない状態になっていると考えられます。胃腸は生命力の根源です。植物に例えるなら根っこのようなものです。畑の植物も根っこが大地からはみ出して冷えてしまったり、肥料が足りなくて根っこがしっかりと育たなかったりすると、実(赤ちゃん)は着きません。ですのでこの方の場合、まず初めに胃腸を温めて丈夫にしていくことを体質改善の中心に考えました。食事は、なるべくパン食を止めてもらい、ごはん(出来れば玄米)中心にしてもらいました。また胃腸を冷やすヨーグルト・コーヒー・果物・生野菜等は極力控えてもらいました。漢方薬は、胃腸を温めて食べ物の消化吸収を助ける小建中湯(しょうけんちゅうとう)という薬に、お腹(卵巣や子宮等)を温めて血行を促進させる当帰(とうき)を加えた当帰建中湯(とうきけんちゅうとう)を処方しました。1ヶ月が経ち来局されると、だんだん下痢をしなくなり、身体が温まってきているとのことでした。さらに2カ月が経ち、病院で再び採卵してみると、以前は2,3個しか出来なかった卵子が7,8個採れ、グレードも良くなっているとのことでした。その後2度ほど体外受精をしますが、結果はでませんでした。しかし体調はどんどん良くなっており、それから1ヵ月後、自然妊娠され無事出産されました。 子宮(苗床)は温かく柔らかくフカフカと 元気な卵子が出来たなら、後は受精卵が安心してしっかりと育つ子宮環境を整えることです。苗床に種子を蒔いたとき、苗床が冷えていたり、硬かったりすると、種子が上手く根を張ることが出来ません。これは人間の場合も同じで、子宮が冷えていたり硬かったりすると、受精卵が上手く着床出来なかったり育たなかったりします。やはり子宮は、受精卵をしっかりと包み込むように、温かく柔らかくフカフカになっていなければなりません。また子宮と同様、卵管も温かく柔らかくないと、冷えて硬く閉塞していては、せっかくの受精卵も通れなくなってしまいます。 【症例】38歳女性。身長153cm体重42kg。1人目は2年かかって人工授精で授かったのですが、2人目がなかなか出来ないとのことです。2人目治療でも、1度は人工授精で妊娠したのですが、10週で流産したそうです。また長年の不妊治療と年齢のためか、卵管が少し閉塞気味で、子宮内膜が薄くなっている言われ、月経量も減ってきています。体質的には、かなりの冷え性で手荒れもひどく、胃下垂気味のせいか、腹壁が薄く硬くなっているとのことでした。また、生理痛・腹痛・腰痛もあり、運動は10代の頃以来、ほとんどしていないそうです。 【この方に出した漢方薬】この方の場合、長年の運動不足のために腹筋がなくなり、腹壁が薄く硬くなって冷たくなっています。これでは、受精卵が着床し育つことが出来ません。畑でも、苗床が冷えて硬くなっているときは種子が根を張ることが出来ないのですが、こういう場合、耕運機で苗床がフカフカと柔らかくなるように耕します。ですのでまずこの方には、硬いお腹を温めて柔らかくする当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)を処方し、縄跳びを1日500~1000回やってもらうことにしました。縄跳びをやってもらったのは、運動は血液循環を良くすると共に、硬い身体を柔らかくしてくれるからです。やがて2~3ヶ月が経過すると、お腹が温まってきてだんだんと柔らかくなっているとの報告があり、それと同時に生理痛・腰痛がなくなってきたとのことでした。そしてさらに4ヶ月が経った頃、無事妊娠(人工授精)され流産することなく出産されました。 汚い古血(_血)を取り除こう 畑の肥料には牛フンの他に、落ち葉・モミガラ・カキ殻などを加えます。なぜなら牛フンだけですと、畑の中が栄養過多となり、葉っぱや茎は大きく育っても、かえって病気になりやすくなったり、実(赤ちゃん)が着きにくくなったりするからです。そしてこれは人間でも同じことが言えます。お肉や脂っこい物の摂り過ぎは、お腹(子宮や卵巣等)に古血(_血)を滞らせ、妊娠を妨げます。 【症例】34歳女性。身長161cm体重59kg。不妊治療(人工授精10回以上、体外受精3回)を約5年してきたそうですが、最近注射をすると卵巣が腫れるようになり、治療を中止し漢方で体調を整えようと来局されました。長年の不妊治療のためか、来局されたときには生理が約半年間来ていませんでした。体質的には、足が冷え、顔は赤ら顔で少し便秘気味、舌の裏には静脈怒張(古血の滞りで紫色)がありました。またコレステロール値が300近くあり、肉や脂っこい物、甘い物が大好きとのことでした。 【この方に出した漢方薬】この方は元来、こってりした物や甘い物が大好きな_血体質でした。植物もそうなのですが、人間の身体も栄養が多過ぎると身体が安心しきってしまい、生理等が止まってしまうことがあります。逆に多少の飢餓状態等があったほうが、身体が危機を感じて子孫を残そうとするようです。 この方にはまず初めに、肝臓とお腹に溜まった古血(_血)を取り除く加味逍遥散(かみしょうようさん)加大黄(だいおう)をお出ししました。すると飲み始めて1週間が経った頃、微熱と下痢が3日間続き、その後黒い生理のような出血がありました。おそらく身体に溜まっていた古血が出たのでしょう。しばらく同じ薬を続けてもらったところ、やがて自力で排卵するようになり、1年が経った頃、無事自然妊娠され出産されました。 水の摂り過ぎ(やりすぎ)に要注意 畑の苗床には畝(うね)を作ります。これは、雨が多量に降ったときの通り路になるからです。もし畝がなかったら、種子は皆、流されてしまいます。水は生命にとって必要不可欠なかけがえのないものですが、多過ぎるとかえって病気になることがあります。漢方ではこれを"水毒(すいどく)"と言います。 【症例】31歳女性。身長153cm体重39kg。今までに3度自然妊娠したのですが、皆5~6週目で流産してしまうとのことでした。体質的には、色白で冷え性、下痢をしやすく、舌には歯型がくっきりとついています(漢方では水苔といって、舌がむくんでいると考えます)。また横になってお腹を叩くと水の音がチャポチャポと聞こえるそうです。好きな食べ物は、バナナ・ミカン・リンゴ・ヨーグルトなど水っぽい物が多いのが印象的でした。 【この方に出した漢方薬】この方の場合、基礎体温表もしっかりと2層に分かれ、妊娠するまでのことに関してはあまり問題はないのですが、流産しやすいことに問題があります。舌べろはかなりむくんでいましたが、漢方ではこれを水苔と呼んで、内臓に水が溜まっていると考えます。もちろん胃の中の水音(チャポチャポ)もそうです。内臓に水が多いということは、子宮の中も水っぽい可能性が高く、受精卵は流れやすくなります。ですのでこの方にはお腹に粘りをつけて流産しにくくする当帰建中湯(とうきけんちゅうとう)に、内臓の余分な水毒を取り除く呉茱萸湯(ごしゅゆとう)を合わせて飲んで頂きました。1ヶ月が経ち来局されると、前よりお小水がよく出るようになり、お腹が温まってきているとのことでした。また、舌を見せてもらうと、前よりむくみは減っています。これは内臓の余分な水毒が出ていると判断し、続けて同じ薬をもう1ヶ月飲んでもらいましたところ、すぐに妊娠されました。そして、安定期まで漢方薬を飲んでもらいながら無事流産することなく出産されました。 男性不妊の原因は下半身力の低下にある 不妊の原因は女性だけでなく男性にもあります。漢方では、生殖器を腎(じん)と呼び、生殖機能の衰えを腎虚(じんきょ)と呼びます。また腎虚は下半身の筋力の低下や血行不良で起こると考えるのですが、車で移動し、朝から晩までパソコンの前で仕事をしている現代人の下半身は、筋力がかなり低下していると考えられます。まだ日本人が農業を主としていた時代には不妊症があまりなかったことを考えれば、下半身の筋力が男性不妊にどれだけ必要かが分かります。 【症例】38歳男性。身長170cm体重67kg。精子数1500万/ml運動率50%。仕事はデスクワークでストレスも多く、疲れやすいそうですが、特に下半身が疲れやすく、夕方になると腰が重くなるとのことです。夜間尿1回、運動はあまりしていません。 【この方に出した漢方薬】下半身力の低下には、漢方では八味丸(はちみがん)という薬を使います。この薬は徳川家康が往年、子作りをするために愛飲していたといわれる薬で、下半身に力をつけ、精力を増します。1ヶ月分お出しして様子をうかがわさせて頂いたところ、下半身の疲れが前より良くなり、体調が非常に良いとのことでした。さらに1ヶ月後、病院で検査をしたら、精子数が3400万/ml、運動率が65%に増えていました。そしてさらに3ヶ月が経って検査をしたら、精子数が7000万/ml、運動率が70%まで増えており、その後妊娠したとの御報告が奥様よりありました。 3.おわりに 漢方薬は、人間が本来持っている生命力を引き出す薬です。それは、自然の薬草等を使って、身体を温めてみたり、悪い血を排出させてみたりさせながら、より自然な形で身体を生命力のある健康な状態へと改善していきます。特に長い間不妊治療をされてきた方は、精神面もストレスで疲れ切っている場合が多く、人間が本来持っている自然治癒力(生命力)がかなり弱っています。お母さんの身体がそんな状態では、元気な赤ちゃんを産むことは難しいかもしれません。ぜひ漢方養生で元気になって、丈夫な赤ちゃんを産んでくださることを心より願っております。
『むつごろう子宝漢方養生訓』 - 冷飲冷食を控えてお腹を温めてください
- 運動は出来る限りやってください(目標縄跳び1日1000回)
- 生命力のある物(芋や豆、玄米)を食べてください
- 甘い物・スナック菓子等は極力控えてください
- 心を穏やかにして夫婦仲むつまじく(むつごろう薬局の名前の由来はここからきています)
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